Part1 フィンランド編:核ごみプロセス、海外ではどうなってる?~ドイツ・フィンランドの事例から~
世界ではすでにフィンランド・スウェーデンが処分地を選定しており、他の国々でも議論を進めています。どの国も数回挫折しながらも、紆余曲折を経てよりよい選定プロセスを模索中のようです。今回は、中でもオルキオト原発に限りなく近い場所に処分場を建設したフィンランドと、脱原発を前提にしつつ住民参加型のプロセスを取り入れようとしているドイツの事例を取り上げます。各国が直面してきた課題から、日本の選定プロセスにおける課題や取り入れるべき論点を見出します。
講師は、原子力資料情報室(CNIC)の澤井正子さんです。
世界で唯一、処分場建設の進む国、フィンランド
「オンカロ」
少し原発問題に関心のある方は、聞いたことのある言葉だと思います。元は「ほろ穴」という意味で、北欧の国フィンランドにある、高レベル放射性廃棄物最終処分場の名前です。フィンランドは、どうやってこの地に処分場を決めたのでしょうか?
19億年の地層は、日本にはない。
「まず話しておきたいのは、フィンランドやドイツと日本では、地理的・環境的前提条件がまったく違うということです。そしてフィンランドには19億年前の地層があり、たまたまその地層にアクセスできる。「それはラッキーだった」と、現地の方も言っているような、地震などない安定大陸の地盤をもっているところです。だから、日本も同じように最終処分できると思って視察に行ったわけではないことは、最初にお伝えしたいと思います。」
稼働率95%!エネルギー安全保障を真剣に考えた、フィンランドの選択
なぜ、原発を続けていて処分地も早く決まったのか―それを理解するカギは、フィンランドの歴史にあるといいます。
「フィンランドはスウェーデンとロシアの間にあり、実は旧ロシア帝国のサンクトペテルブルク(ソビエト連邦時レニングラード)にとっても近い。スウェーデンかソビエトどちらかに支配されてきた歴史が長く、特にソビエトの搾取・支配は過酷でした。第二次世界大戦のときは、ヒットラーのドイツをとるか、スターリンのソビエトをとるかを迫られた。結果としてドイツと同盟を結んだので、フィンランドは日本と同じ敗戦国です。
ロシアとの関係性は人々の考え方、暮らし方にものすごく大きな影響を与えています。ロシアは、フィンランドにあらゆるエネルギー源を供給するとしています。ヨーロッパ中にロシアからのガスパイプラインが施設されていますが、フィンランドはロシアに依存したくないという歴史的経過があるので、エネルギーセキュリティ上原発を選択していくのです」
「現在、フィンランドには原発は4基しかないけれど稼働率は95%以上。日本は震災前でも60%くらいでしたから、とても高いですね。フィンランドで事故がないわけではないけれど大きな事故は起こしていません。定期検査で核燃料を1/3ずつ取り替えるけれど、その時くらいしか原子炉は停まっていません。この稼働率は世界一です。だから市民の間にも、フィンランドの原発は安全という信頼感みたいなものはある。
戦後のエネルギー政策の中で、必要不可欠だけど電源の多様化を図っていこうという考えもありますが、それでも原発の比率は高い。」
なるほど、エネルギーを自前で調達するために、原子力が今も欠かせない国なんですね。
ちなみに、フィンランドの原発比率は33%程度。その他各国の電源構成はこちらのサイトにも詳しく掲載されています。
出典:sustainablejapan「世界各国の発電供給量割合[最新版](火力・水力・原子力・再生可能エネルギー)」(2017.7.31)
もともと原子力関連施設のある場所に建設
オンカロは、そんな原子力関連施設のある場所の隣に建設されています。フィンランドには、オルキルオト原発とロビーサ原発の二つがありますが、それぞれに使用済み燃料の中間貯蔵施設と低・中レベル最終処分場があります。オンカロは、オルキルオト原発とロビーサ原発の両方の高レベル放射性廃棄物を処分するためのものです。
その、サイト選定方法はどのようなものだったのでしょうか。
なぜ国民や地元は賛成をしたのか?
「自治体の元議員さんに会った時のこと。「反対は無かったのか」と聞くと、「4分の1~3分の1は反対だったが、でも(多数決で)結果的にはそうなった。」と答えていました。」
フィンランドでは、日本のように多額のお金を使いまくるという形の誘致ではないそうです。でも、政策的で建設的な決め方をしたのかというと…?
「フィンランドでは、勝手に国が文献調査をどんどん始めました。ただチェルノブイリ原発事故があったため、各地で反対運動が起こり、しきりなおしました。
そこで1987年、新原子力法において、原則として『決定には候補自治体の文書による同意が必須』であることを規定しました。
その後、ポシバという実施主体(民間団体で、ロビーサとオルキルオト原発を運転する電力会社が創設した)が選定作業を開始しました。」
「選定の方法は三段階。第一段階に入っていなかった候補地が第二段階でいきなり現れたりして不可解な部分もありましたが、最後はオルキルオトになりました。ここは、原子力施設にはアレルギーがないですから。原発もあるし、作業員も沢山住んでいるし。町長さんも、誘致の理由を完全に「お金」だと言っていました。事業者に対して信頼感を持っているし、財政支援があるから誘致したのですと。最終処分場の該当地域になると、税率を高くできると法律で決まっているのです。」
やはり原子力関連施設がまったくないところだと受入れが難しく、オルキルオト原発の関連施設が集積する地区は、処分場も受け入れやすかったといえます。
「情報統制は日本よりも強い、と現地のNGOは言っています。例えば、事業会社であるポシバの広報担当者(日本でいうと事業主体であるNUMOの広報官)の素性がすごい。国民的人気スポーツ、アイスホッケーの人気選手だった人(国民的英雄)を広報官にして、その人が「安全ですよ」と言って国民を説得をします。向こうの環境NGOにも話を聞きましたが、情報統制はとても力を入れている…とのこと。政府よりもポシバを信頼しているとも。想像を絶する状態だとも言っていました。」
誘致する側の論理と、それを受け入れる国民の意識
まず印象的だったのは、原発を選んだ歴史や地理的状況が、日本と異なっているという点。他国に依存したくないというエネルギー安全保障面が、稼働率96%の原発に対する非常に高い信頼を生み出しているのかもしれません。
一方、澤井さんのお話の中で、「一人当たり電力消費量はフィンランドは大変多く、日本の2倍使っている。アメリカよりも依存度が高い!」という点には驚き。
「これだけ電気使っているのだから。ゴミはどうしたらいいのかを国民が考えざるをえない…そんな社会的な状況も大きな影響を与えていると思います。」
このような点があったからこそ、廃棄物対策をどうするか、比較的スムーズに進んだといえるのかもしれません。
一方で、施設の受け入れ側の根拠が自治体に入るお金であるという点は非常にシンプルに思えました。
適切な岩盤の無い日本では、そもそも「科学的」な比較をすることはできない
フィンランドの事例でうまくいっていることが、日本で当てはまるかというと非常に疑問だ
と、澤井さんは話します。
「国内の瑞浪や幌延にある地層処分研究センターでは、中に入ると水でびしょびしょだけれど、オンカロそれほどでもありませんでした。事業者の説明は、亀裂が入っていれば使わず、片麻岩と花こう岩を候補に決めているとのこと。フィンランドにもドイツにも、比較的安定した地盤は当然あるわけです。
でも日本は「これだ」といえる地盤がないから、結局「どこでもよい」ということになる。地盤を選べないのです。
”適正な地盤がどこにも無い→どこでも良い”になってしまう。だって今、手を挙げれば候補地になるのが実態です。科学的な妥当性は、あとから付いてくるので、フィンランドと日本を比べてもしょうがないと私は思っています。」
ちなみに、
「地震の少ないフィンランドにとっての地層処分における問題は何かというと、次の氷河期。氷が300mくらい乗ってくる。すごい重力で地面が下がる。その時に処分場はどうなるのか…そういうことは考えたほうが良いとのこと。」
…後編(ドイツ)に続く。
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