核のゴミ「対話型全国説明会」再開に抗議の声
2月21日より、主に関東圏で開催される経産省・NUMO主催の「対話型全国説明会 試行版」。エネルギー政策の在り方や、NUMOの不適切動員問題の再発防止策などが話されないまま再開した理解活動に対して、有志グループが抗議声明を提出したので紹介します。
≫抗議文原本はこちらから
≫抗議の様子(虎ノ門の説明会会場にて)
≫説明会と抗議の様子「“謝礼で動員”批判相次ぐ 「核のごみ」説明再開で」
2018年2月21日
経済産業大臣 世耕 弘成 殿
資源エネルギー庁長官 日下部 聡 殿
原子力発電環境整備機構 近藤 駿介 殿
抗議声明
原子力事業・放射性廃棄物処分事業全般への
真の「事実関係究明と再発防止に向けた対応」が
ないままの「対話型全国説明会」再開に抗議する
原子力発電所を動かし、使用済み核燃料を再処理することで発生する高レベル放射性廃棄物。政府や電気事業者は、「将来世代に負担を先送りしない」ためにも、原発のゴミ処分の道筋をつけることが、電気を使う「現世代の責任」であると強調し、最終処分地の選定を急いでいる。
2017年7月、経済産業省(以下「経産省」)は自治体や国民の「理解」を得ようと、「科学的特性マップ」を発表。これを受け、経産省と高レベル放射性廃棄物最終処分の事業者である「原子力発電環境整備機構」(以下「NUMO」)が主体となり、全国各地域で「科学的特性マップに関する意見交換会」を開催した。この中で、2017年11月6日に開催された埼玉会場において、謝金を約束し、学生を動員していたことが発覚した。
問題発覚後、NUMOはウェブサイトにおいて、「広報業務を再委託されていた事業者が、自らの誤った判断で、一部の学生に対して『参加すると謝金がもらえる』と伝えていたことが判明しました」 とし、あくまでも再委託された事業者(株式会社オーシャナイズ)が独断で行ったこととした。また、「外部有識者による評議員会に調査チームを速やかに設置」し、「事実関係の究明と再発防止の徹底に全力で取り組」 むとしたが、NUMOの「評議員会」 自体が、原子力事業の明確な利害関係者を多く含み、こうした評議員会を「外部有識者」と呼ぶNUMOの姿勢がすでに国民の目を欺くものと言わざるを得ない。さらに、実際に設置された「調査チーム」 は、メンバー4人のうち3人がNUMOの関係者であり、これもまた、「外部有識者」で構成された「調査チーム」とは決して言えるものではなかった。
本日、NUMOと経産省は、あたかも、すべて問題が解決されたかのように、何事もなかったかのように、「対話型全国説明会」なるものを再開する。私達は次の2点を見直すことなく「対話型全国説明会」なるものを再開するNUMOと経産省に対して強く抗議する。
<組織の体制と体質の改革>
調査チームは2017年12月27日に今回の問題に関する「調査報告書」 を発表した。「調査報告書」による原因分析においては、「委託者側のリスク認識・リスク管理が不十分であった」とされている。しかし、意見交換会の本来の目的が学生や市民との信頼関係を築き、最終処分に関しての理解を深めてもらうことであるならば、その役割を広告会社等に委託し放棄すること自体、NUMOは存在意義を自ら否定していたとしか言えない。株式会社オーシャナイズに責任を押しつけ、同社と契約を解除すれば問題が解決するというのは、トカゲの尻尾切りとしか言えない。
そもそも、「負担」を生み出している原子力発電事業を推進する官庁である経産省の命令を受け、またその役員・職員に多くの電力会社や原子力事業関連機関からの出向者・出身者を抱えているNUMOという組織自体、「リスク認識・リスク管理」が欠如している。今回の調査において追加的に明らかになった、東京電力から出向しているNUMO職員が、東京電力職員等に対して意見交換会への動員要請をした事例は、こうしたNUMOの体質からくる典型的な弊害ではないだろうか。本件については、NUMOの近藤駿介理事長及び藤洋作副理事長に「厳重注意及び月額報酬10%減額(2ヶ月)」、中村稔専務理事及び宮澤宏之理事に「厳重注意」処分をすることで片付けられた 。しかし、本当に「今回の事案発生を、機構自体への信頼を大きく揺るがしかねないものとして重く受け止め」 ているのであれば、このような一時的な処分ではなく、組織の体制を抜本的に変革することが、本来求められていることである。
一方で、経産省に至っては、何ら責任を取ることもなく、世耕弘成経済産業大臣は「対話活動のやり方に丸投げがあったとか、孫請会社が動員をしていたという問題点がありましたので、これは何かすごく複雑な問題というわけではありませんので、直ちに今対応させていただいて、試行的に改善したものをスタートさせる」 と発言し、まるで事態の根深さを認識せず、責任を感じていないかのような印象さえ受ける。なぜ今回のような問題が起きるかということを、経産省は真摯に考えるべきである。本来は、経産省が担っている原子力政策全体(原子力発電の継続、全量再処理を前提とした核燃料サイクル政策、地層処分を最終処分の唯一の選択肢とする政策判断)の見直しなしに、国民の理解を得た「処分地選定」など、できるはずがない。にもかかわらず、経産省は原子力発電事業や核燃料サイクル事業全体への不信を払拭したいがために、最終処分事業だけを切り離してその事業責任をNUMOに押しつけ、拙速に立地選定の遂行を迫っている。その結果、責任を負わされ早急な対応を求められたNUMOの焦りが、委託先や再委託先、電力会社から出向してきた職員を、今回のような不適切な行為に駆り立てることになったのではないか。
また、利益誘導により物事を進めることは、経産省を筆頭とした原子力事業関係者の変わらぬ体質であり、これまでも電源三法交付金等の経済的利益や、荒唐無稽な地域振興策を掲げ、住民の反対を押し切って原子力施設の立地を進めてきた。NUMOの地層処分事業においても、「地域共生の取り組み」などと称して、自治体に対して交付金をエサにして立地を進めたいとする姿勢は変わらない。それは、学生に対して謝金をちらつかせて参加を要請した今回の行為と重なるものである。
こうした経産省、およびNUMOを含む原子力事業・放射性廃棄物処分事業関連機関の組織の体制と体質を改める姿勢がなければ、真の意味で「事実関係究明と再発防止に向けた対応」とはいえない。それができない組織は、今回の不祥事発覚を好機とし、早期に解体すべきだと思われる。
<これまでの原子力政策・放射性廃棄物政策の検証と見直し>
経産省とNUMOは、「将来世代に負担を先送りしないことが、廃棄物を発生させてきた現世代の責任」であると繰り返し強調しているが、果たして本当にそれが「現世代の責任」なのだろうか。その前に、「現世代の原子力事業関係者」が、果たすべき責任があるのではないか。核燃料サイクルの破綻を認めず 、原発を温存させ、原発のゴミを増やし続けている状態で、最終処分場の議論を進めることこそ、将来世代への負担を増やす行為にほかならない。
エネルギー政策全体における原子力発電利用の是非、核燃料サイクルの必要性、そして、最終処分地選定や地層処分研究のために引き裂かれてきた地域の歴史…。あまりに多くのことが無視されたまま、最終処分地選定に問題が矮小化され、うわべだけの「対話」が、また行われようとしている。
実際に、安全神話をはじめとする嘘で塗り固められた原子力政策を押しつけられた地域では、これまで多くの住民が反対の声を挙げてきた歴史がある。放射性廃棄物最終処分事業関連だけに限っても、これまで地域住民の信頼を損なう行為が数多く行われてきたが 、そうしたことについて、経産省およびNUMOの役員・職員・関係者は、どれだけ認識し、反省をし、これまでの意見交換会などの場で語ってきたであろうか。過去のこうした行為(原子力発電および使用済み核燃料再処理などを行い、未だ断念しないという政策的決断も含める)が原子力事業・放射性廃棄物処分事業全般に対する不信に結び付いているということを、経産省およびNUMOは認識し、そのうえで、原子力事業・放射性廃棄物処分事業全体に対する、未来に向けた「事実関係究明と再発防止に向けた対応」をすべきである。なお、私たちは、こうした意味において「再発防止」とは、エネルギー政策を見直し、原子力発電と核燃料サイクルの廃止を決定することだと考えている。
そのような真の「事実関係究明と再発防止に向けた対応」なしには、市民、とりわけ「将来世代」との信頼関係など望むべくもない。真実を語り原子力政策そのものの是非を国民的な議論まで発展させ、結論へと導くことこそが、これまで原子力事業・放射性廃棄物処分事業に関連してきた「現世代の原子力事業関係者の責任」である。
以上
本声明に関する問い合わせ先:
原発のゴミ処分問題を考える有志の会(kakugomiprocess@gmail.com)
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