速報:科学的特性マップに関する意見交換会第1回レポ(東京)

2017年7月に科学的特性マップを発表したNUMO。今秋から、46都道府県(福島を除いたすべての都道府県)にて意見交換会を開催するとのこと。

本日10月17日、その第1回目が東京で開催されました。

前半の講演のみを聞くB席には100名程度、後半の意見交換会にまで参加するA席には、40名~50名程度が参加していたように見えました。

A SEED JAPANメンバーや、普段活動で一緒になる仲間も数名、参加してきました。

その模様を、簡単にお伝えします。


■登壇者

小林大和氏(資源エネルギー庁 電力・ガス事業部放射性廃棄物等対策課長)

伊藤眞一氏(原子力発電環境整備機構《NUMO》理事)

山崎晴雄氏(放射性廃棄物ワーキンググループ委員/首都大学東京名誉教授(地質学))

高橋嘉明氏(東京電力 地域対話・リスクコミュニケーション)


■意見交換会内容

1.開会挨拶

資源エネ庁の小林氏より挨拶がありました。

「これまで原発の恩恵にあずかってきた我々が解決策を見出す必要があり、また一人でも多くの方に理解いただくため、今回、科学的特性マップを作成した。

マップの提示は長い道のりの最初の一歩だと思っている。一方、ある地域の中の人が理解しただけではこの問題は進まないと思うので、しっかりわかっていただきたい。」

※講演内容については後日NUMOのHPに掲載される予定です。


2.講演-地層処分という選択肢を将来世代から奪ってはならない

まず、NUMOの伊藤氏から地層処分に関する説明がありました。

「なぜ地層処分をするのかというと、地上で保管するよりも安全だと考えているから。国際的には地層処分が最良だということになっている。」

資源エネ庁の小林氏からは、科学的特性マップについて説明がありました。「科学的特性マップ発表後、これを機に前進しなければならないですねと言ったご意見や、そもそも地層処分が良いのかと言ったようなご意見などをいただいている。」


なお資源エネ庁の資料には以下のような内容の記載があります。

●地層処分の是非については、未来永劫地層処分が最良かというと、それは確かに保証できないとも思っている。しかし、他の技術が地層処分に替わるとの見通しはどの国でも得られていない。

●一方で、技術進展が起こる可能性もあるため、できるだけ“回収可能性”を確保し、将来世代に選択の余地を残す。

●日本学術会議が過去に出した報告書の『暫定保管』という概念は、地層処分を前提にしたものであり、地上保管をいつまでも続けるべきとは言っていない」

●単に地上保管を続けることで地層処分という選択肢を将来世代から奪ってはならないと考える。


3.意見交換会―将来世代の選択肢は担保されるのか?

筆者の参加したグループで話題になったのは、まず地層処分の妥当性と、それ以外の地層処分プロセスの方向性についての議論でした。その様子をお伝えします。

講演の中で、資源エネ庁は「地層処分という選択肢を将来世代から奪ってはならない」ことを、地層処分事業を進める根拠として挙げていました。

これに関し、後半の意見交換の中で2点、将来世代の選択肢と言う観点から質問をしました。

1)事業の中で、可逆性と回収可能性(※)は、法律的・技術的に担保されていないのではないか。技術的な研究は国内に2か所ある研究施設で研究されているのか?

※可逆性:文献調査→概要調査→精密調査→建設…といった各段階において、「将来的に受入れ地域の意向が変わって拒否した場合には次の段階には進まない」ということ。事業者であるNUMOは、この可逆性を明言している。しかし法的な整備はまだない。

※回収可能性:放射性廃棄物が一度処分場に搬入された場合でも、完全に閉鎖されるまでは掘り返すことができる可能性のこと。将来世代の選択肢を残すため、政府はこの「回収可能性」を担保すると明言している。

2)将来世代の選択として、直接処分(※)を前提とした検討を始めるべきではないか?

※直接処分:現在、政府が前提としているのは、直接処分ではない。各地の原発に溜まった核ごみ(使用済み核燃料)を、いったん青森県六ヶ所村の再処理工場で再処理をし、その後に残った放射性廃液をガラス固化したものを地下に埋める計画だ。しかしその再処理工場は10年以上も稼働の見通しがない。もし再処理計画をやめた場合、六ヶ所村からではなく各地の原発からの搬入経路や、ガラス固化体ではなく使用済み核燃料の処分に関する技術開発が必要になる。

1番目の可逆性と回収可能性については、NUMOのご担当者から「技術的な開発は研究所で研究していく予定である」との回答でした。JAEAが管轄する瑞浪市、幌延町の研究施設でどのような研究がなされていくのか注目することが必要です。

2番目の使用済み燃料の直接処分については、現在JAEAで研究しているとの回答でした。

しかし、「再処理は続ける前提」であることにも、地層処分が前提であることにも変わりはありません。JAEAが行っているとする研究にどのくらいの予算をかけているのかや、今後どのような研究が必要なのかについても、今後市民から声を上げていく必要があると感じます。

また、参加者からは、「使用済み燃料が溜まり続けている今、ゆっくり時間をかけて「可逆性を」と言っている場合ではないのではないか?」といった意見や、「原発立地地域に乾式貯蔵施設を作るべきではないか」という意見もありました。


4.予算「3.7兆円」の根拠は何か?

さて、意見交換会でもう一つ重要な論点となったのが、最終処分に必要とされている「3.7兆円」の資金についてです。

本当に足りるのか?その根拠は?内訳は?

今回の意見交換会において、資源エネ庁、NUMOから具体的な回答はありませんでした。

この予算は、2000年の最終処分法を制定する際に、最終処分にかかる費用として3兆円の試算が出され、現在はそれにTRU廃棄物(地層処分しなければならない低レベル放射性廃棄物)の処分費0.7兆円が加算されて、現在の3.7兆円となっています。それに対して参加者からは、「100年以上の事業において、3.7兆円で足りる根拠があるのか?」といった疑問の声も上がっていました。予算についても、様々な想定でかなり幅がありそうです。

再処理をする場合、しない場合。原発を稼働させた場合、稼働させない場合。地層処分をするにしてもその場所、事故が起こった場合…様々な状況を想定して、試算をしたとき、本当のコストはいくらになるのかはまだ分からないと思います。


5.おまけの感想-「地層処分という選択肢を奪ってはならない」という説明をどう見るか?

今回、この言葉を初めて聞き、印象に残っています。

資源エネ庁の小林課長は、成果として「将来世代に対して、「処分場の選定は出来たぞ」と言えるようになりたい」と仰っていました。

これに対しては、「地層処分という選択肢は、この40年間決して受け入れられてこなかった」という事実と同時に話していく必要があるかもしれません。

NUMOが設立される以前にさかのぼりますが、旧動燃が、いくつかの地域で高レベル放射性廃棄物処分場候補地を秘密裡に調査していました。それに対して、地域が処分場受入れを食い止めてきた歴史も、もっと知るべきではないかと考えます。核ごみ問題は、決して「これまで放置してきた問題」ではなく「住民によって食い止められてきた歴史」であり、だからこそ、とても根深い問題だからです。

しかしながら、最後に資源エネ庁の小林課長が下記のことを仰っており、それはその通りだと考えました。

「全国の人が『大事な問題だ』と思ってもらわないと、うまくいかないと思っている。一部の地域だけが理解をして受け入れを決めてしまうようでは、この事業はうまくいかない。社会としてどう考えていくのかが、大事だと思っている」。

合意形成をどう行っていくのか、具体的にお聞きしたかったのですが、時間切れでした。


今回、経産省の担当者、NUMO担当者、放射性廃棄物ワーキンググループ委員などと一般参加者とで、少人数の意見交換をできたことは、非常に有意義だと感じました。

しかし、ここで交わされて意見交換会が合意形成の場であるかといえば、それは主催者に委ねられてしまっているのが現状です。ここで交わされた声を政策や事業に活かす場をつくるにはどうしたらよいのか、引き続き考えていきたいと思います。


《関連記事》

■科学的特性マップに関する学者見解(立石雅昭氏(新潟大学名誉教授))

https://asjkakugomi.amebaownd.com/posts/2732895?categoryIds=664566

■TRU廃棄物は10年で漏れだす?(末田一秀氏(核のごみキャンペーン関西))

https://asjkakugomi.amebaownd.com/posts/2769847?categoryIds=664566


《関連情報》

■NUMOの全国意見交換会は、これから各地域で開催していく予定だそうです。

■科学的特性マップに関する調査を手伝っていただけるインターンを募集しています。

核ごみプロセスをフェアに!

商業用原発が稼働してから60年の間に、約18,000トンの”使用済み核燃料”が排出されました。これまでの処分場誘致のプロセスは決して民主的なものとは言い難い結果です。そんな中、経産省は、2017年度中に高レベル放射性廃棄物の処分地に適した地域をマッピングして、公表する予定です。そこでA SEED JAPANでは、「公正なプロセス」とは何かを探るため、草の根のプロジェクトを立ち上げました。

0コメント

  • 1000 / 1000